新婦
私の名前は綾香。
一学年に10人くらいいそうな名前でしょ?
年齢は29歳。
来年には3年付き合った彼と結婚する予定。
プロポーズ?
ええ、私の好きなレストランの夜景が見える席で、1カラットのダイヤがついた婚約指輪と共にね。若干彼の顔が青ざめてた気がするけど。照明の加減だったかしらね…。
「29歳の誕生日までにプロポーズしないなら別れる。」と直接言わず、共通の友人に言い続けたのが効いたみたいね。
結婚式?
ええ、都内のホテルで挙げるわ。私の両親も彼の両親も楽しみにしてるしね。
え?
そのわりにはなんか浮かない顔してるって?
新郎
僕の名前は翔。
一学年に10人くらいいそうな名前だろ?
年齢は33歳。
昨年の秋、3年付き合った彼女にプロポーズをした。
結婚はまだまだ先の話と思っていたのだけれど、
共通の友人から「彼女が29歳の誕生日までにプロポーズしないなら別れようと思っている。」と詰められて思わず…。
後悔してるのかって?
も、もちろん、いずれは結婚するつもりでいたから後悔なんてしてないよ!
ちなみにプロポーズは1カラットのダイヤモンドリングと共にね。
実は知り合いに無理やり頼み込んで40%OFFで手に入れたことは彼女には内緒だ。
結婚式?
うーん、興味はなかったけど、僕の両親も彼女の両親も「いつにするの?」と当然のように聞いてくるので、ついつい都内のホテルに申込みしちゃったよ。
あ、ついついしちゃったってことはないか。
浮かない顔をしてるって?
そうなんだ、ちょっとした問題があってね。
いや、正確にいうとそんなに問題ではないのかも知れない。
なぜなら僕以外は問題視していない可能性があるんだ。
新婦の悩み
その結婚式場で紹介されたドレスショップに行ってウェディングドレスを試着したのよ。
ほら、私、肩幅があるでしょ?
だから首からデコルテ、腕までレースで覆われたでデザインのドレスを選んだんだけど…。
何だか似合ってない気がして。
もちろん、ショップの店員さんは「すごくお似合いですよ。」って言ってくれたんだけど。
彼?
うん、もちろん「似合ってるよ。」って言ってくれたけど。
写真?
ほらこれなんだけど、どう思う。
似合ってる?
<新郎の悩み>
とにかく彼女のウェディングドレスが似合ってない気がするんだよ。
そもそも、僕はファッションに興味がない。
仕事はスーツだし、プライベートで着ている服もかれこれ2、3年は着ているような…。
だから彼女のショッピングに付き合っても「どっちがいい?」とか聞かれたこともない。
いや、正確に言えば付き合って最初の頃は聞かれた気がするけど、僕の返事が「どちらでもよい。」「どちらともいえない。」「よく分からない」の3つしかないのでいつしか聞いてこなくなったような…。
そんなファッションに疎い僕でも、今回の彼女のドレス姿…。
やっぱり似合ってないと思うんだよ。
ドレスショップの店員さんは「お似合いですよー!」と言っていたんだけど。
彼女の決心
やっぱり、他のドレスショップにも行ってみようと思う。
でも、ちょっと不安なのが他のドレスを着た時も同じように違う気がしたことだ。
つまり、何を着ても似合わないのでは?と思ってしまう。
正直ちょっとは自信があった。
身長は157cmで高い方じゃないけど、普段から体形には気をつかってるし、出る所は出てるひっこむ所はひっこんでいるつもり。
流行に対してだって、普通の人よりは少しアンテナ張ってる方だと思う。
職場の後輩や友人達からもファッションについて相談を受けたことだってあるし。
やっぱり、ウェディングドレスって外国人のように足が長くないと似合わないのかしら。
彼の決心
やっぱり言ってあげようと思う。
「それ、ちょっと似合ってないかも。」って。
でもどう言うかが問題だ。
一度は「いいんじゃない。」と言ってしまった手前「いや、実はもともと似合ってないと思ってたんだよ。」と言うと、彼女がとても怒りそうだ。
何かいい口実はないだろうか?
「写真撮り忘れちゃったから、もう一回試着にいかない?」
いやそれだったら、彼女が撮った写真が送られてきて終わりだ。
「もう一回君のドレス姿が見たいんだ。」
…いや、急に気持ち悪いな。その後に似合わないとかますます言えない。
「そういえば、ドレスどれにするか決めた?まだ?そっか、僕にももう一回写真見せてくれる?」
うーむ。このパターンでいくか。
いや、結局「似合わないって」言わなきゃ伝わらないか・・・。
…まてよ。
他のドレスショップに行って似合うドレスを見つければいいのでは?
そ・れ・だ!
そうと決まれば、他のドレスショップを探そう。
そして、「せっかくだから他のドレスも着てみたら?」と言えば自然だ!
ドレスショップの店員
このカップル、何だか緊張してるな。
わざわざ提携していないうちのショップに来るのはいいけど、持込料がかかるの分かってないのかしら?最初に説明してあげておいた方がいいかな。
「本日はお越し頂きありがとうございます。また、ご婚約おめでとうございます。」
「いえ。こちらこそ急に予約してすみません。」
「いえいえ、とんでもございません。お二人は●●ホテルで結婚式でしたよね?」
「はいそうです。」
「●●ホテル様と当店はご提携をさせて頂いておりませんので、おそらく●●ホテル様の方でお持ち込み料がかかると存じますが、ご理解いただいておりますか?」
「え、そうなんですか?」
やっぱりー。そんな事じゃないかと思ったわ。
「多少のサービスをさせて頂き、お持ち込み料の負担を軽減することはできるかとは思いますが…。」
あー、試着しないで帰っちゃうパターンかしら。これ。
「いえ、でも試着はしたくて…。いや、してほしくて!」
え?
何で彼が言う?
お嫁さんもびっくりしてますけど…?
「あ、そうなんです。彼の言う通りでして。」
え、そうなの。何か彼の方が前のめりなんですけど。
「もちろん、大丈夫ですよ。では、早速ですけど何か希望はありますか?」
「あ、はい!彼女に似合うやつを!!!」
新婦の疑問
意外だ。
彼から「こんなドレスショップもあるよ。」と言われたのは先週の金曜日。
「え?どうしたの?」とさらに驚いたのがすでに予約済みとのこと。
「いや、ほら、どうせなら色々着てみるのもいいんじゃないかなって。」
式場を決める時、「どちらでもよい。」「どちらともいえない。」「よく分からない」しか言わなかった彼が妙に積極的だ。
どうせ結婚式の準備は私がやるんでしょと半ばあきらめていたので、驚いたが素直にうれしい。
嬉しいけど、何か変。
新郎の意気込み
よし、何とかこの日にたどりついたぞ。
僕が選んだショップは意外と人気のショップだったらしい。
最初は訝し気な顔をしていた彼女も「よく、知ってたねー。」なんて喜んでいた。
これならば、彼女に似合うドレスもあるような気がする。
おお、なんか受付もお洒落だ。
待っている間の紅茶もおいしい。(関係ない。)
店員さんも何かやってくれそうな雰囲気だ。
よしこれなら大丈夫だろう。
「それ、似合わないよ。」と言う事を回避できそうな気配がプンプンする。
「●●ホテル様と当店はご提携をさせて頂いておりませんので、おそらく●●ホテル様の方でお持ち込み料がかかると存じますが、ご理解いただいておりますか?」
なにー!そうなのか!
聞いてなかった。まずい、一体いくらかかるんだ…。
彼女は知っていたらしい。すらすらと答えている。
え、1着につき5万円?そんなにするのか!
いや、ここは似合うドレスを着させることが大事だ。
「いえ、でも試着はしたくて…。いや、してほしくて!」
あぶないあぶない、僕が試着するわけじゃなかった。
「もちろん、大丈夫ですよ。では、早速ですけど何か希望はありますか?」
当然、僕の答えは一つだ!
「あ、はい!彼女に似合うやつを!!!」
新婦の解読
なるほど…ね。
彼の答えにショップの店員さんが朗らかに笑っている。
「素敵な彼ですね。」
ですって。
外からみたら「彼女に似合うドレスを必死に探す彼。」という感じに見えなくもないが、
私にはわかってしまった。
「彼女に似合うやつを!!」ですって?
つまり「こいつ、この間のドレスが似合ってないと思ってやがった。」と。
どうやらはっきりと言えなくて、こんな回りくどいやり方をしたってわけね。
今後の夫婦生活考えると、どうなのそれ?と思っちゃうけど、
最後のつめで軽くバレてしまうんだから、今後も悪い事は出来ない人なんだろうと安心もした。
まあ、そもそも私だって「なんか違う」と思っていたんだから、良しとしよう。
私は「素敵な彼ですね。」というショップさんに
恥ずかしそうに微笑んで見せた。
ショップ店員の答え
憑き物が落ちたように晴れやかな表情の新郎と急に微笑みだした新婦。
どうした?
何があったこのカップル?
「そういえば、式場のショップで試着したドレスの写真、見てもらえば?」
と彼にすすめられて、彼女が差し出したスマホを見せてもらった。
「これなんですけど…。」
あら、なかなか素敵なドレス。他のショップのデザインも捨てたもんじゃないわね。
これなら、うちにも似たような形があるから、後は値段で勝負って感じかな…。
「なんかちょっと違う気がして。」
新婦が続けて言う。
あぶねー。
ついつい癖で「とってもお似合いですね!」って言いそうになってたわ!
どれどれ、ともう一度見てみることにする。
ああなるほど。
私は理解した。
そもそも、裾が長すぎるのだ。
いや、裾が長いというより、足の長さが足りないのだ。
そして、トップスも少し大きめのようだ。
「ご試着の際、もうワンサイズ小さいものは試着されましたか?」
「あ、いえ。その日はたまたまそのサイズがなかったみたいで。でもそんなにブカブカでもなかったので。」
なるほど。
レンタルドレスショップあるあるの一つ。
結婚式の打合せやドレスの試着も、結婚式当日も当然ながら土日が多い。
つまり人気のあるデザインのドレスが結婚式本番で出払っている事が多いため、
サイズ違いのものを着てイメージを見てみましょうというのはよくあることだ。
「当店でも同じようなタイプのドレスがありますので、まず着てみませんか?」
「え、でも。同じような感じだと似合わない気が…。」
「いいえ。きっとお似合いになると思いますよ。」
私は自信に満ちた笑顔でお二人に答える。
まとめ
結論からいうとこのお嫁さんはこのドレスショップで同じようなデザインのドレスに決めたようです。
持込料?
ドレスショップが少し割引をしてくれたのでチャラになったみたいです。
何が違ったのか?
実はドレスショップの店員さんは、ぴったり合ったサイズのドレスに少しだけ高めのヒールのパンプスを履かせただけです。
ドレスに限らず、服には全てベストサイズってものがあります。
どれだけ可愛いい服でもサイズが合っていなければ「んー。着てみるとイマイチだな。」ってことになりかねません。
特にウェディングドレスはシルエットを重視したデザインが多いので、着丈があっていないとシルエットが美しく見えないのです。
こう言うと「日本人は背が低くて足が短いから。」という人がいます。
ではウェディングドレスは欧米人のように足が長くないと似合わない?
いえいえ、とんでもない!
そもそもですが、ドレスとはヒールを履いて着る服です。
これは外国人のモデルさんを使って撮影するとよくあることですが、もともと背が高くて足が長い欧米の女性にヒールを履かせると「足長すぎ!」とか「身長どれだけあるの?」って感じになり、むしろヒールを履いた日本人の方がバランスのとれたスタイルになる事があるのです。
ですので、試着をした時に少しでも違和感があったら「似合わないな。」とあきらめてそのドレスを脱いでしまう前にパンプスを履き替えてみてはいかがでしょうか?
ベストサイズの目安としては、正面から見た時にヒールのつま先が見えるか見えないかくらい。(どちらかというと見えている。)
そのサイズで歩いた時にウェディングドレスが歩調にあわせてスイングする感じです。
もちろんドレスの形によっても違いますし、運命の一着に出会うためにはサイズ以外にも様々な要素があります。
これは個人的な意見ですが、日本人の持つきめの細かい肌はウェディングドレスとの相性が抜群です。その相性たるや世界最強です。(大袈裟!)
そしてさらにサイズ感をぴったりと合わせたなら、どんなウェディングドレスも大抵は似合ってしまいます。
そこからさらにあなたの魅力をもっと引き立たせる、
運命のドレスがあなたを待っています。
ですので皆さん、自信をもって試着に行きましょうね!