大安吉日の土曜日の夕方にもなると、いかにも結婚式帰りというような黒っぽいスーツやタキシードの男性陣と色とりどりの華やかなワンピースに上着を羽織った女性陣の一団を見かける。皆同じペーパーバックを持っているのを見ると「ああ、結婚式帰りなのだな。」と分かったりする。
この結婚式に参加するともれなく新郎新婦からもらえる品物を「引出物」などと呼ぶ。
引出物の由来は、その昔は何かの記念にあるいは友好の証に、馬をプレゼントすることがあり、その馬を受け取り側の前で引き回し品評させたということらしい。
つまり別に結婚式でのお返しを引出物という訳ではなかったようだ。
ここ数十年の結婚式では来て頂いたゲストへのお返しとして、その引出物に加えて「引菓子」なるものを差し上げるのが主流だ。この引菓子という言葉は引出物の菓子バージョンだから引菓子という呼び名になったようだ。
引出物や引菓子なんていうと何だか伝統や歴史を感じるが、大した理由も言い伝えもない。
「今度の式典の引き出して取り回す馬、どうする?」というのが面倒になった誰かが「今度の引出物とうする?」に省略したくらいの話かもしれない。
この省略の仕方は最早ダイ語レベルだ。
さておき、誰が呼んだかこの引出物。あげる側の新郎新婦にとっては「誰に何をあげるか?」や「部長と課長は同じ金額の品物でよいのか?」で悩み、「重い物だと申し訳ない。」などと気を使い、よせばいいのに挙句の果てに「私たちらしいものにしよう。」なんて思いついてしまい、どつぼにハマることが多い。
先輩花嫁に聞いた「結婚式で悩んだことアンケート」に必ず出て来る項目だ。
そして、困ったことにこの引出物、面倒くさくなりいい加減に選んでしまうと「あの二人、どうなの?」なんて思われてしまうこともあるという、わりとやっかいな物なのだ。
引出物をもらった人の感想
さて、あなたが結婚式に参加して引出物をもらい、家に帰って空けたとしよう。
その感想は?
「うわ、ひでーな、安そう。」
「ああ、そんな感じか。」
「わー嬉しい!!」
どう考えても真ん中じゃなかろうか?(言葉遣いはさておき…。)
そうなのだ、何故か結婚式の引出物というのは「もらっても大して嬉しくないもの。」に定着してしまったのだ。
何故か?
家族、親族、上司、先輩、同僚、親しい友人、同級生など各種生きてる場所も生活レベルも全然違う人々が一同に会する場において、数種類はあるにしてもある程度決まった御礼の品を贈ろうとすれば、最大公約数的な発想になり、より「無難」なものになってしまうのは致し方ないのだ。
新郎新婦だって出来ることなら一人ひとり違う物を選んでさしあげたいと思っているが、やはり面倒だし、そもそも式場から提示されるカタログは品数も中身もイマイチでそれぞれに合ったものなんてそうそう見つかるわけもない。
そりゃそうだ。引出物のカタログに載っている商品なんて一山いくらで仕入れるから安いわけだから。
ちなみに3,000円のお皿があったとして、式場はそれを引出物の業者さんからだいたい1,800円~2,100円で仕入れている。その引出物業者さんは一体どこからいくらでそれを仕入れているのか?
メーカーから直接仕入れた場合、おそらくだが600円~900円くらいではないだろうか?
さらにそれを一山いくらで買うならもっと安い可能性だってある。
もちろん、そういう商売なので仕方ないが、大体そんなものと考えると「うわー素敵―!
嬉しいっ!」という物ではない可能性が高い。(誰だ?心の貧しい奴め!などと突っ込むのは…。)
カタログギフトの台頭
さて、誰に何を差し上げればいいのか悩みに悩んだ挙句、「ゲストに好きな物を選んでもらおう。」もしくは、「遠方からくるゲストに大きな引出物をもって帰ってもらうのは申し訳ない。」などの理由からカタログギフトという物を引出物として選ぶことが多い。
1987年あの通販の老舗シャディがはじめてカタログギフトなるものを販売した。当時はおめでたい席の引出物にカタログなんて失礼だということですぐには爆発しなかったようだが、今や全国で販売されている引出物のうち50%以上がカタログギフトにとって変わっている。
このカタログギフトを誰かに送ったことがあるならお分かりだと思うが、3,000円、5,000円、10,000円というように値段によって違うカタログになっており、食器などの従来の引出物の他に、雑貨、産直の食材、温泉旅行券などバラエティ豊富なラインナップだ。
しかし、カタログの中身をよく見てみると「これ1,500円くらいなんじゃね?」という物も記載されている。
カタログギフトもらったゲストが商品を選び所定の書式やネットなどに必要事項を入力すれば商品が発送されてくる。当然発送代がかかる。(発送代は別になっており既に新郎新婦が負担している場合もあり)
仮に発送費用込で3,000円だとすれば普通に3,000円の商品を購入するより儲けが少ないはずなのだが、その分は仕入れの安い商品も取り混ぜてバランスをとっていると思われる。
色々書くと否定しているように思われるが、個人的には最近のカタログギフトは各社の企業努力で本当にバラエティに富んでいて、選ぶのも楽しい。
誰に何を差し上げるか悩んでいるカップルにはやはりおススメの商品だ。
お持ち込み料がカカリマス。
世の中3,000~5,000円の予算でプレゼントを選ぶならかなりの選択肢があり、相手が「わー、嬉しい!」と言ってくれる物は溢れかえっている。
なのになぜ、結婚式の引出物はあまりうれしくないのか?
それは、新郎新婦が好きに選んだ品物を式場で引出物としようとすると、1個あたり●●円の「持込料」がかかるからだ。
街の雑貨屋さんでとても素敵な小物を見つけて「これ、結婚式の引出物にならないかしら?」と店員さんに聞くと「素敵ですね!ラッピングも致しますよ!」と答えてくれる。
意気揚々と結婚式の打合せで担当のプランナーに「私たち●●というお店の小物を引出物にしたいんです。」と伝えると「そうですか、では1個につき●●円のお持ち込み料を頂きますね。」なんて言われてしまう。
「え?何ですか持ち込み料って?」と尋ねると「保管料として。」とか「責任もって管理するので。」とか、色々言われます。
『あ、本来私たちの儲けになるはずのものが儲けにならないので補償金みたいなものです。』とはっきり言ってくれればすっきりするが(しないか・・・。)、何となくオブラートにつつまれ、ついでにきつねにつままれた気持ちになる。
ならばと、引菓子くらいは自分達の好きな店で選ぼうとしても同様にお持ち込み料はかかるのだ。うーむ残念。
持込料の相場としてはだいたい1個につき300円~500円。
結局多くの新郎新婦が「わざわざ余計な300円を払うくらいなら式場でもらったカタログの中から選ぼうか。」となる。
まあ、最近の引出物はお洒落な物もあるので何となく「ま、いいか。」で着地する。
冷静に計算したら好きな物でよくね?
もの凄い面倒くさいが、ゲストそれぞれに本当に喜んでもらえる品物をあげたいと考えた場合。
1個持込料300円かかったとしても、引出物相場でいえば2,700~4,700円まで予算があるのだ。前項にも書いたが受け取った相手が「わー、嬉しい!」って言ってくれる物を選ぶのには十分な予算とはいえないか?
とても大切な人の大切な記念日に贈るプレゼントの予算としてはちょっと弱いが、もともと大した期待もしていない結婚式のギフトなのだから。
これが引菓子になるとちょっと微妙だ。引菓子相場は1,000~2,000円だ。仮に1,000円の引菓子に対して1個300円の持込料をかけるのは割高だし差し引いて700円のお菓子とするとあまりいいものが買えない気がする。
ということで、選んだりするのが面倒でない人は、引出物は持ち込み料がかかっても好きな物を選び、引菓子は式場でもらったカタログの中から選ぶのはどうだろう。
喜ばれるギフト
さあ、ここからが本題だ。
プレゼントって贈る人のセンスが無茶苦茶問われる。この前提に反対意見がある人はいないと思う。
普段はめちゃくちゃお洒落でトレンドを常にキャッチアップしているイケメンな彼からとても残念なプレゼントをもらった経験はないだろうか?「えーっと、このアクセサリーは何ですか?」みたいな。
また、別に付き合っているわけでもない女性に「手作りの品物」をもらって恐怖を感じたことないだろうか?「か、髪の毛とか入ってないよね・・・。」みたいな。
そうなのだ、引出物ととらえると何か別物に感じるがあくまでもギフトであり、人に差し上げるということはプレゼントなのだ!
そうとらえれば選ぶ方向が違ってこないだろうか?多くの新郎新婦がはまってしまう考え方として「もらった人にとって役に立つもの≒嬉しいもの」という視点。
実は本人にリクエストを聞かない限り「そんなもんわかるかーい!」が本音だ。
全てのゲストに「ああ、ちょうど欲しかったんだよね、これ。」なんて言われるの無理。
なのでプレゼントの基本に立ち返ろう。
「もらって嬉しいプレゼントとは、品物と一緒にちょっとしたサプライズがあるもの。」なのだ!
勝手に自分のセンスを押し付けてもだめ。思い(重いやつ、もしくは最早願い)をこめすぎてもだめ。品物自体は大したものじゃなくてももらった人にちょっとした驚きを提供するのだ。(おどかしちゃだめです。)
ということで、あなたが考えるのはゲストそれぞれが何をしたら驚いてくれるか?なのだ。
実際に喜ばれたギフト
もらった相手が感激で涙するまではいかないが、なかなか凝っていてもらった人が少し驚いたギフトを紹介します。
お香
『ステキなパッケージ付きの10cmくらいのお香が10本セットに。香りの種類が数十種類あり、それぞれの効果効能が違う。ゲスト一人ひとりの体調や性格に合わせた組み合わせで、組み合わせた理由とメッセージを添えて贈った。』
ゲスト一人ひとりに対してその人に合う香りをセレクトしたことやパッケージが小さくて軽いのも好評だった。一人ひとりに違うものを選びながら一つのお店で買えるというメリットもあり、さらに予算が1,500~2,000円だった。
グループに一つ
『みんなで使えるキャンプセット、家族で遊べるボードゲームなど、一人ひとりではなく一グループに一つだけど豪華なもの。』
かなり特殊な例だが、各テーブルに一つ(その時は各テーブル5~6名席だったので15,000円~18,000円の予算)みんなで使える物を引出物にした。
パーティー中に開封していくというイベントの一つとして行ったがかなり盛り上がった。
新郎の会社の仲間には、皆で時々やるというBBQにつかうコンロや小物一式。新婦の会社の同僚には最近壊れた給湯室のコーヒーメーカーだったり。新郎新婦が本当によく考えぬいた感じがゲストに喜ばれた。
想い出だけが残る物
『それぞれに、物ではなく想い出をあげたい。という考えから、ゲスト一人ひとりに行ってほしい場所のチケットをプレゼントした。』
一人あたり5,000円の予算の中で、遊園地や美術館などのチケットを用意。チケットだけなので軽くてかさばらないことが好評。また、遠方から来たゲストに対してもゲストの住む町の近くの遊園地のチケットなどになっており本当に想い出を作ってほしいという新郎新婦の思いが伝わった。
独身の友人には、ラブストーリー限定と油性マジックで書かれたシネコンのペアチケットや一回限定の街コンの参加チケットなど、ゲストが笑えるチケットが多かったのも印象的。
まとめ
前項の例はいかがだっただろうか?
人によっては「ん-?イマイチなんですけど?」となっているかも知れない。が、受け取ったゲストが大変に喜んでいたのは事実だ。
片側では「無難」にしておいた方が良いという意見もある。私も無理やり捻りだしたようなギフトを送るのなら、カタログギフトで良くないか?という派だ。
ウェディング全般に言えることだが、奇をてらった狙いすぎのものや、やたらと二人の思いが詰まっているものなどはちょっと「イタい」とすら思ってしまう。
二人で思いついたアイデアをあなたの担当者が冷静に判断してくれるといいのだが…。
そして、どの例の新郎新婦も「引出物って何にすればいいのかわかんねー。」ではなく、「どうしたら喜んでもらえるかなー。」というスタートだったように思うので、引出物や引菓子を選ぶ時の参考にしてほしい。
超個人的意見だが、引出物や引菓子がないぶん料理を超高級にしてくれた方が嬉しい。そんな結婚式があったら是非参加したい。
そして、ゲストもその方が想い出に残るのではと思ってしまうのは私だけだろうか?